治療薬の知識その1

産業医として衛生担当者にレクチャーをしてきました。

今、旬のテーマは、やはりコロナ感染です。

話すべき内容は、検査、薬、ワクチン、ウィズコロナの世界とは、など多岐にわたります。

一度に語ることは、難しいので、5分程度で読めるレクチャーにまとめることにしました。

今回は、治療薬を取り上げます。

従来からある医学知識から考えるとどのような薬になるかについて、基礎知識を提供します。

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概況

コロナウイルス感染が始まって半年が経過して、世界が大きく変わってしまいました。

世界中にパンデミック流行となり、各国は国境を閉ざして、国内感染の抑え込みに全力を注いでいます。

日本、韓国、中国、ヨーロッパなどは、ようやく感染第一波の山を越えてきました。

今後は、国境開放にともなって、感染第二波の発生が危惧されています。(本当にいつあるのか?)

感染症対策には、検査、薬、ワクチンが武器となります。(現状はとても非力)

現状での、それらの開発状況と問題点を整理して一般人が持つべき基礎知識をまとめます。

今回は、治療薬がテーマです。

 

抗ウイルス薬の特徴

まず、ウイルスに対する薬は原理的に開発がとても難しい。

数十年かかっても、実用になっているのは、たったの4種類です。

慢性疾患の肝炎ウイルスとエイズウイルスの2種類。

急性疾患でも、インフルエンザとヘルペスの2種類だけです。

いかに、抗ウイルス薬の開発が困難であるかを物語っています。

 

病原菌の治療薬として、皆さんの頭にすぐ浮かぶのが抗生物質でしょう。

抗生物質と抗ウイルス薬を比較してゆくと理解がしやすいと思います・

 

抗生物質は、ペニシリンの発明から始まって50年以上が経過して、数百種類が開発され、多くの病人を救ってきました。

便利なのは、汎用性が高いことです。多くの種類の細菌に有効であるので、適当に使っても効果が期待できるのが便利です。

初期に使っても、重症になってから使っても、効果が期待できます。



一方で抗ウイルス薬は、特定のウイルスにしか効果がない。

ウイルスごとに開発が必要になる。今のところ4つの疾患にしか開発ができていない。

あれもこれも効くような汎用性があるウイルス薬は、原理的に無理だと考えられています。



今から、コロナウイルス用の薬の開発を始めても、10年以上先になるし、できないかもしれない。

ということで、新規開発は、選択外になります。

代わりに、今まで開発された薬が、ひょっとして効果があるかもしれないという淡い期待で、

実験・治験が進められています。



現在、名前が挙がっているものは下記のとおりです。報道で耳にしたことがあると思います。

     アビガン・・・インフルエンザ用

     レムデシベル・・・エボラ出血熱用

     カレトラ・・・HIVウイルス用(すでに対象外となったようです)

その他にも、マラリア薬、疥癬という人体に寄生するダニに対する薬、膵炎のくすりなど、

多くの候補が挙がっているが、なぜ効果が期待できるのかの根拠が薄弱です。

現在のところ、すべて否定的な実験結果が得られています。

 

抗ウイルス薬は、使いづらい点があります。

投与する時期が限られおり、早めに投与しないと効果が期待できないという制約があります。

抗生物質は、細菌を殺す薬ですので、初期でも、重症化してからも効果があります。

しかし、ウイルスは、そもそも生きていないので、殺すというコンセプトで薬の開発ができません。

ウイルスの増殖を抑えるというコンセプトの薬しか成功を収めていません。

すなわち、感染の初期に投与しないと効果が期待できない。

肺炎などを起こしている人は、すでに体中にウイルスが、大量に増えているので、

それ以上にウイルスの増殖を抑えても、症状の改善が期待できません。

このように、とても使い勝手悪い薬になります。

例として、インフルエンザ薬は、発症48時間以内に投与しないと効果が限定的ということをご存知の方も多くいると思います。

 

アビガンとレムデシベルの2薬に絞って治験が進んでいるようですが、今のところ効果があるかどうかについては、

はっきりとした研究結果が得られていません。

2つ理由があります。

1.先進国では、感染ピークを越えてきたので、新規発生者数が少なくて、治験対象者が集まらなくなっている。

 

2.中等症以上の感染者に投与する実験が中心なので、そもそも効果が期待しにくい対象者で治験をすすめている。

発症早期の患者を対象者として選べば、効果があるかどうかがわかりやすくなります。

80%以上の人が、軽症のままで薬による治療なしで軽快することはわかっています。、

薬を服用しなくても治癒する人が多数出る可能性が高いので、

治験薬が効いたかどうかがわかりにくくなる恐れがあるので、対象としていない。

 

さて、まとめです。

可能性のある薬剤は、アビガンとレムデシベルの2剤に絞られてきました。

いずれも、ウイルスの増殖を抑えるコンセプトの薬です。

早期、軽症者が対象者になります。

そのために、早期に感染者を発見する検査が、いまよりもっと便利に早くできることが条件になります。

 

以上のようなことを総合すると、数か月後に薬が効くとわかっても、今の状況は、大きく変わらないという結論になります。

国民全員に服用されるという極論は、ありえますが、膨大な費用がかかるので実現性は乏しい。(抗ウイルス薬は、とても高価になります)

副作用もやや多い薬ですので、早期疑い例の段階で服用することは、反って副作用に悩まされる例が多数出現することも危惧されます。

 

皆さんに、質問です。

症状は少ないけれど、PCR検査でコロナに感染していることが早期に発見されました。

薬を服用すると50%の人が、数日早く治ります。

副作用は、比較的多いです。

費用は、10000円かかります。薬なしでも80%の人が自然に治癒します。

この前提で、薬を服用するかどうか考えてみてください。

 

暗い結論になりました。

これが、多くの医師が心の底で持っている気持ちです。

新聞報道は、いいところだけに偏って報道しがちになります。

TVも目新しいことしか報道しません。

それらの報道を、冷静に判断する基礎知識としてもっていただけることを願って書きました。

 

2020.6.28