治療薬の知識その2

堀クリニックの堀博司です。



産業医として、病気の基礎知識の普及のためミニレクチャーを続けてきました。

今年に入ってからは、ずっとコロナ感染がテーマになっています。

一般の皆さんにレクチャーの内容をかみ砕いて、読み物として提供をしてきました。

今回が第2回となります。

今回は、治療薬の続きになります。

第1回では、ウイルスの薬を開発するのがとても難しいということを説明してきました。

最近、実用になったものが発表されましたので、治療薬のテーマの続きとして、それらを詳しく解説します。

 

 

薬として淡い期待が残っていた候補薬が、2つありました。

レムデシビル(アメリカ)とアビガン(日本)です。

 

レムデシビルが治験を終えて、正式に販売されることがアメリカで発表されました。

この薬は、エボラウイルス用に開発されましたが、未だに実用化されていないものでした。コロナ薬の新規開発は難しいので、これを転用する実験が続けられていました。

ようやく、薬として販売されることになりました。

やはりとても高価です。一人当たりかかる薬剤費が2340ドルです。

円にすると25万円になります。

6/30には、日本のメディアでも報道されたので、新聞記事で知った方もいると思います。

 

期待の効果については、次のようなものでした。

注射薬ですので、入院患者が対象者です。5日間で6本の注射をします。

薬を投与しなかった患者の入院期間は15日でしたが、薬を注射した患者は平均11日で

退院できました。入院期間が4日間、31%短くなった。

死亡者が減ったかどうかについての発表はありませんでしたので、たぶん差はなかったのだと憶測します。何らかの効果があれば、発表するのが当たり前でしょう。

 

さて、効果と費用を知ってがっかりしたことだと思います。

ウイルスの薬は初期に使わないと効果は少ないし、とても高価であることは前回で話しました。  とにかくウイルスは手強いのです。

 

アビガンの治験は遅れています。7月中には、治験の結果が発表されることが期待されています。効果が確認できるかどうかについての情報リークはまったくありません。

なんとなく悲観的な雰囲気です。

仮に、効果があるとしても、レムデシビルと同じコンセプトで作用する薬ですので、

淡い期待に止めておきましょう。

ウイルスに直接的に作用する薬は、これですべて終わりになる見込みです。

 

一方で、少し明るい話題もありますので、紹介しておきます。

6/16にイギリスのオックスフォード大学がデキサメサゾンが重症患者の死亡率を下げるという研究結果が出たと発表しました。

デキサメサゾンは、ステロイドの1種で、今から50年前から使われている超古い薬です。

日本では、「デカドロン」という商品名で販売・使用されています。

炎症の原因には関係なく炎症反応・免疫反応を強力に抑えます。

多くの病気の治療に広く使われていますが、感染症に使われることまれです。

免疫を抑えることでウイルスを逆に増やして、病気を悪化させるおそれがあるからです。

 

重症の肺炎で、もう助からないと思われるときに使用することがあります。

何十年も前に私が学生時代に学んだ医学書にも記載があります。

最後の手段としての位置づけでした。

 

コロナ肺炎がなぜ重症化・長期化することについては、不思議に思われていました。

患者数が増えて経験が深まり、ウイルスのために悪化するのではなく、「サイトカインストーム」という現象が起こって肺炎が悪化してくることがわかってきました。

サイトカインストームとは、一言で言えば、免疫の暴走で身体が破壊されてゆく現象です。

ウイルスと戦っている免疫細胞が、戦いが長期化するうちに攻撃力が異常に高めて、ウイルスに侵された細胞だけでなく、見境なしに肺の細胞を破壊し始めるという恐ろしい状態が起こってきます。

 

オックスフォードの研究チームは、デキサメサゾンが免疫システムを抑えてウイルスが増えてくる危険があるにもかかわらず、その薬を重症者に使う研究を始めました。

重症患者では、すでにウイルスが原因というよりもサイトカインストームで悪化していると仮定としたわけです。裏目に出る可能性がある治療になりますので、実施には勇気が必要な実験です。日本ではできそうにありません。イギリス人は偉いと思います。

目を見張る結果が公表されました。しかも6000人を対象者としたのですから十分に信頼に足りる研究と思われます。 WHOもすぐに、この研究を賞賛しました。

 

人工呼吸器をつけた患者さんで死亡率が30%低下し、酸素を供給して患者さんでは20%の死亡率の低下が確認できました。

一方で、酸素供給を受けていない軽めの患者では、効果はなかったということです。

 

昔からの治療法なので、医師ならなるほど教科書どおりの結果だと納得するでしょう。

私も、発表を見て、たちまち理解・納得ができた結果です。

ただし、むやみに実施するとウイルスが増えて症状が悪化することを常に念頭におきながら、ぎりぎりのタイミングを探らないといけないので、いざ使うとなると難しさがあります。

この薬は、古い薬ですので、とても安価であることも救われます。数十円程度の薬です。

ウイルスの直接薬と比べて、数千分の一の安さです。

効果が確認できた治療法のひとつが見つかったということは、大きな朗報ですが、

ウイルスを抑える薬ではなく、重症肺炎に限定した薬であることを知っておくことは大切です。予防や軽症者に使うと裏目にでます。

 

ウイルスを抑える薬が少なくとも一つが発売され、昔の薬が重症肺炎の救命に役立つことはわかりました。

しかしいずれも皆さんが、期待するような夢のような治療にはなりません。

 

ブレークスルーのような薬が見つかることあればいいのですが、当面はないと考えて前に進むことが必要です。

コロナ感染に対する残る手は、ワクチンの開発・普及だけとなります。

これに対しても、壁は何重にも高い壁が待ち構えています。

次回は、ワクチンの基礎知識の勉強を考えています。

 

2020.7.4