特殊な治療法

7月よりコロナ感染者の著しい増加が話題になっています。

第2波の到来だと言われています。 

第2波では、感染者は多いのですが、重症者は少なく、死者も数名程度の少なさです。

コロナウイルスが分類されるRNAウイルスは、短期間で変異を起こします。

第2波は、弱毒化した変異ウイルスの可能性があります。弱毒化すると感染しやすくなるという経験則があります。

もしそうならば、多くの人が軽症者として感染して集団免疫が成立してくるかもしれません。

早ければあと半年で終息となる期待が出てきます。

 

ワクチンの開発は、驚くべきスピードで進んでいます。

毎日、新聞紙上では、ワクチンの記事が絶えることはないような状況です。

コロナ感染が始まったころの予想より、もっと早くワクチンができるかもしれないという期待が湧きます。

従来、製薬会社は、ワクチンの開発について、あまり積極的には取り組みませんでした。

開発に失敗するリスクが高い割には、企業の収益に対する寄与が少ないためです。

民間会社ですから、儲からないビジネスは避けるのが当然のことです。

しかし、事態は大きく変わりました。

今のコロナ感染拡大に対しては、政府が巨額の資金を提供してワクチン開発の後押しをしてくれるので、

製薬会社は安心をしてワクチン開発の研究・開発に取り組めるようになったことが背景にあります。

 ワクチンが実用化され、コロナ感染の拡大が抑止されるには、高いハードルがあります。少なくとも3つの高い壁があります。

それらの問題については、まだまだ先になりますので、少しずつお話をしてゆきます。

いずれにしても、安全性・有効性が確認されたワクチンが流通するには、半年以上先になります。 

 

 今回は、コロナ感染症で使われる特殊な治療をテーマにします。

重症肺炎を起こしている患者さんへの最後の治療手段として血漿抗体治療と人工呼吸器が

使われます。

 

血漿抗体治療とは。

コロナ感染症を発症した患者さんは、最終的には自分の免疫の力でウイルスを排除して

回復に向かいます。血液中には、ウイルスに結合して、ウイルスの増殖能力を失わせる抗体というタンパク質があるようになります。

感染症から回復すると抗体が長期にわたって

身体に維持されるので、同じ病気には再感染・発病しないことが医学の基礎知識です。

この反応を、応用するのが血漿抗体治療です。

具体的には、コロナ感染症から回復した人から、血液の提供を受けます。

その血液から、血漿という成分だけを取り出します。

この中に、コロナウイルスに対する抗体が多量に含まれていると考えられます。

コロナ感染症で、どんどん悪化して生命の危機が迫っている患者さんに、その血漿を

患者に点滴で注入します。含まれている抗体が、どんどんとウイルスを無力化して

病気からの回復に導きます。

 

成功率が高い治療法ですが、色々な問題もあるので、少数の人に実施する特殊な治療にとどまります。

まずは、元患者さんから同意を得て、かなりたくさんの血液を採取することが必要です。

すべての元患者さんが、よろこんで同意・提供をしてくれるわけではありません。

提供された血漿には、期待するコロナ抗体だけではなく、いろいろな物質が含まれています。

中には病原性のある菌が含まれている可能性もあります。大きなリスクとなります。

人間の身体には、無害だけれど、多くの菌・ウイルスが共存してることが知られています。

血漿が手に入りにくいという点と、ハイリスク・ハイリターンであることが特殊治療として、

ごく少数の人だけが受けるという特殊な治療法に留まります。

エボラ出血熱のときに、この治療法で救命できた例があるので、重症のコロナ患者に最後の治療として試されています。

 

次は、人工呼吸器の話です。

こちらは、一般的な装置なので、イメージできる人も多いと思います。

肺炎を起こしてくると、肺の機能が低下し、必要な酸素が吸えなくなります。

酸素チューブを鼻に付けて、高濃度・多量の酸素を吸入して、何とか必要な酸素が吸えるようにするのが、肺炎治療の基本です。

多くの患者さんは、この治療を続けているうちに病原菌が少なくなり、肺機能も回復してきます。

 少数ですが、肺機能がさらに低下して、十分な酸素濃度が得られなくなると、いよいよ人工呼吸器(レスピレーター)の出番となります。

人工呼吸器は、酸素濃度を上げるのに役立ちますが、肺にダメージを与えるので、長期間使用すると肺に回復不能な障害を与えます。

 

なぜなら、人工呼吸器を使うと、自然の呼吸とは、大きく違う呼吸を外部から強いることによります。

自分の自然の呼吸を実感しましょう。

男性は腹式呼吸、女性は胸式呼吸をする人が多いです。

腹式呼吸とは、横隔膜を下げることにより肺の中が陰圧になり、自然と空気が肺の中に入り込みます。

胸式呼吸では、肋骨を上に引き上げて肺の中を陰圧にして呼吸をします。

普通の状態では、意識をして呼吸をすることはなく、一分間に20回程度の呼吸が反射的に続きます。

一方、人工呼吸器では、圧力的には、まったく逆の方向で肺に空気を送り込みます。

人工呼吸器は、単純に考えると空気ポンプの装置です。

圧力をかけて、空気を肺に押し込みます。肺を無理やり膨らませるわけです。

肺の奥にある肺胞と呼ばれる膜に力が加わり、少しずつ壊れてゆきます。

このため人工呼吸器を長い間使うことになった人は、回復後も、肺の機能が落ちて呼吸器障害が残ります。

コロナ感染症は、抗生物質のような治療薬がないので、自然の回復を待つしかないので、

人工呼吸器に頼る日数がとても長くなりがちです。

ニューヨークの大発生時には、人工呼吸器を導入せざるを得なくなった人の70%が死亡したと言われています。

人工呼吸器を使うことは、すなわち死を意味する雰囲気に覆われたそうです。

 

人工呼吸器を使っていても、酸素濃度が上がらなくなったら、最後の手段はECMOの登場となります。

4月に、この言葉を初めて知った人もたくさんいると思います。

ECMOは、静脈から血液を取り出し、酸素を含ませる装置を通過させて、ふたたび身体に戻す装置です。

肺を全く使わないので、肺の損傷は起こりません。肺の機能が失われていても、身体に酸素を送ることができます。

こちらも長期に使用すると大きな問題が発生します。

身体のすべての血液を体外に取り出して色んな機器に触れさせるために血液に異常な変化が起こりやすくなります。

赤血球と血小板は、血栓と作って血管が詰まりやすくなります。

白血球は、免疫能力を失って、病原菌と戦う能力が低下します。

複雑な装置なので、人工呼吸器と比べると段違いに取扱いが難しくて、専門の能力と経験が必要になります。

決してECMOも万能の治療機器ではありません。

ウイルスに対する免疫力が低下するとやがては死を迎えることになります。

 

日本では、4月に重症者が多数発生しため、人工呼吸器が足りなくなるのではかと不安が高まりました。

政府は、人工呼吸器の増産に発破をかけました。

 では、人工呼吸器が増産されて、どの病院にもたくさんの機器が追加納入されれば危機は遠のくのでしょうか?

臨床医の経験からは、機器が足りないのは困るが、機器さえいっぱいあれば問題は解決するとはとても思えません。

 人工呼吸器の扱いはとても手間がかかり、経験も必要です。

機器がたくさんあっても、それを扱える人が十分にいないと役にたちません。

人工呼吸器は、機械としては単純な構造ですので、新規に参入した工場でも増産できます。

しかし、それを扱える人はすぐには増員できません。

人工呼吸器を装着すると痰が自力では吐き出せなくなるので、チューブで痰を吸い出さないと窒息します。

それらの介護を支える医療従事者がいてこそ、治療機器として機能します。

4月のときの政府の行動は、単に人工呼吸器が数だけそろえば、死ぬ人はいなくなるという誤ったメッセージを市民に送ったように感じています。

 

7月に入り、感染者が増え続けていますが、重症者は少なく、人工呼吸器を必要とするひともほとんどいないのは幸いです。

 死者は、一日あたり1名以下に留まっています。

このことはとても重要なことです。

政府は、感染者数のカウントばかりを克明に公表していますが、大切なことは、重症者が

どれぐらい発生しているかだと思います。

感染者が爆発的に増えたとしても、重症者が少数にとどまっているならば、単なる風邪に近い取扱いも可能にもなります。

前回にお話をした五類への指定変更です。

7月から感染者数は、増えてきて第2波の到来と言われています。

しかし重症者の数はとても少ないので、第1波のときの状況とは、良い意味で、明らかに異なる様相になっています。

 感染者数より、重症者と死者がどれくらい増加しているのかが、とても大切です。

報道は、感染者数の増加に偏っていて、本当の脅威の大きさがみえなくなっているように感じています。

本当は、脅威は小さくなってきているのかもしれません。

 

2020.7.28