ワクチンの基礎知識 人の心の壁

第10話 コロナ感染(ワクチン 人の心の壁)

 

ワクチンの解説の第3話になります。

これがワクチンについては最終回の予定です。

 

ワクチン開発の3つの高いハードルを順に話してきました。

開発の壁、時間の壁、今回は「人の心の壁」がテーマです。

最初の2つは、開発者が直面する壁でした。

 

「人の心の壁」は、私たち一般市民が、完成したワクチンにどう向き合うかという壁です。

感染拡大抑圧のために完成したワクチンを実用化する時に壁を作ってしまうと、せっかくのワクチンが実際には、役に立たなくなってしまうという話です。

「あなたは、新型ワクチンを、本当に接種しますか?」という問題です。

 

流行型のウイルス感染は、多くの人が感染すると集団免疫という状態となり、やがて発症者は著しく少なくなって、感染終息となることは、ご存知だと思います。

ワクチンは、人為的に感染したのと同じ状況を作り出して、感染終息を目指す手法です。

 

多くの人がワクチンを接種しないと感染終息に導けないということになります。

理論的には、少なくとも70%以上の人が接種を受けることが必要です。

 

世の中には、病気は怖がるけれど、ワクチンはもっと嫌だという人が、一定の割合で

存在します。

ワクチンなど受けなくても、感染しないと自信を持っている人もいるでしょう。

安全・有効なコロナワクチンが開発されたとしても、初の遺伝子ワクチンとなる可能性が高いので、ワクチン被害を恐れる人がどれぐらいいるか想像がつきません。

 

「人の心の壁」のためにワクチン普及が挫折した例を2つ紹介します。

 

1例目は現在進行形の事実です。

子宮がんの予防ワクチンが、10年前に完成して、世界中で普及しています。

しかし、日本では、少数ながら副作用が発生して、その後、ぱったりと普及がストップしています。

自治体がワクチン費用を支援する話も、宙ぶらりんになって止まっています。

婦人科医たちは、子宮がんで若い女性が命を落とすことがないように、しきりにワクチン接種の再開をアピールしています。

しかし、世論と政治は、無視をしています。

先進国では、まれな状況になっています。

せっかくのワクチンがあるのに、日本の女性は不幸な状況に置かれています。

接種を受けるのは、未成年に女性なので、親たちが再開を望むべきと考えますが、ワクチン対する拒否アレルギーは高まったまま接種が普及しなくなっています。

 

2例目は古い話になります。

1976年の史上最大のワクチン事業の挫折という話を紹介します。

1976年に、当時も新型インフルエンザが発生して大騒動が起きました。

アメリカ政府は、数千万人が死亡したスペイン風邪と同様の惨事を恐れました。

アメリカ大統領だったフォードは、空前の大規模ワクチン事業をすることにしました。

全国民の70%になる2億人以上を対象にしたワクチン接種を実施する計画です。

計画が拙速で、使用するワクチンについて十分な安全性と有効性が十分に確認されていませんでした。

ワクチン接種が始まって1か月半後に、重篤な副作用が報告され始めて、次々と増えてゆきました。

2か月半後に、この接種計画はうやむやのうちに中止になりました。

この話は有名ですので、ご存知のかたもあると思います。

 

日本での、インフルエンザに接種率は、年間5000万人、50%で推移しています。

しかし、これだけ接種しても。毎年、インフルエンザは流行をします。

2019年は、3000人が死亡しています。

流行が完全に抑えるためには、90%以上の接種率が必要なのかもしれません。

 

新コロナワクチンについては、すでに政府は、大量のワクチンをどのようにしてスムースに医療機関に提供して、短期間に接種を終えることができるのかについて計画を練り始めています。

国民をいくつかのカテゴリーに分けて、優先順位をつけて、順番に接種をしてゆく方法をとる見通しです。

この方法は、2009年の新型インフルエンザのワクチン接種の時に編み出したものです。

医療関係者、高齢者、妊婦、病弱な人、子供・・・・最後に一般市民という順番になります。

私は、2009年の新型インフルエンザの接種を開業医として担当しました。

初めての事でしたので、行政の対応のまずさによるゴタゴタ騒ぎは、が今でも記憶にはっきりと残っています。

優先順位にこだわったワクチンの配布と広報に時間をかけすぎて、結果として多くの人に接種することができませんでした。

優先順位が低い人たちは、接種の順番を待っているうちに、感染が拡大してしまい、結果として大量のワクチンが残りました。

国は、国産だけでは不足する懸念のため約1000億円を払って、ヨーロッパからインフルエンザワクチンを買い付けました。

 最終的にはまったく役立てることができずにすべて廃棄することになりました。

あまりにも「都合の悪い真実」だったので、報道もされることは少なく、事実を知らない人もたくさんいると思います。

私は、行政の対応のまずさに、本当にあきれ返ってしまいました。

今回も接種計画がうまく運営されるのかどうかについては、臨床医として不安を感じます。

 

当時は、現場の事がわかっていない人が計画を立てていると感じました。

これも、「人の心の壁」のひとつです。

 

新しいコロナワクチンが完成しても、新しいアイデアに基づくワクチンになる見込みなので、安全性も有効性も未知の部分が残ります。

費用がいくらになるのかもわかりません。インフルエンザは4000円ぐらいです。

モデルナ(アメリカ)は、まだ完成していないワクチンを販売価格を設定しました。

3500円程度です。

2回接種するので流通コスト・接種コスト費用を加算すると1万円を超えるかもしれません。

国家の負担で無償提供されるかもしれません。

いずれにしても、多くの人が接種をうけないと集団免疫による感染抑圧には役立ちません。

少なくとも5000万人以上が接種をうけることが必要です。

 

安全性は、まずまず大丈夫となっても、どれぐらいの効果があるかどうかが十分に証明されないワクチンが市場に出てくると思われます。

おそらく、モデルナのワクチンが、一番乗りになりそうです。

複数の種類のワクチンが完成するかもしれません。

WHOは、50%の有効率があれば、ワクチンとして認めるとすでに公表しています。

感染症専門家は、70%はないと有効とは言えないという人もいます。

まだ、先は混沌としています。

 

早ければ、来年早々にも、大量生産が可能になったワクチンが接種できるようになります。

皆さんは、その時までに、このよう世界初の実験的ワクチンを受けるかどうかを決めておくことが必要になります。

 

さて、もともとの問題に戻りましょう。

「皆さんは、このワクチンを受けますか?」

日本の大部分の人が、積極的にワクチン接種を受けないとコロナフリーの世界が実現しません。

日本は、強制的にワクチン接種を強いる社会ではありません。

ワクチンが実用になるため壁のうち、最後で最も高い壁が、この「人の心の壁」です。

 

ワクチン実用化までは、まだ1年以上先になると思われていましたが、年末には承認まで至る可能性が浮上してきました。

そのときまでに、自分の心に壁があるのかどうかを確認しておくことが必要です。

 

治療薬も期待できないことはわかってきました。

コロナ感染が拡大している今は、多くの人が一刻も早くワクチンの完成を強く望んでいます。

しかし国民全員あるいはワクチンの完成を待ち望む人の全員が、接種を望んでいるわけではないと思います。

接種が可能になった時には、まだ安全性・有効性の情報は十分ではないかもしれません。

しかし、感染拡大の阻止にはスピードが求められますので、接種するのかどうかの判断をすぐに求められます。

皆さんは、ワクチンの完成に何らの寄与をすることもできません。

完成するのをただ心待ちにするだけです。

でも最後は、皆さんが積極的にワクチン接種に協力するという判断が必要になります。

 

もう一度、尋ねます。

皆さんは、このワクチンの接種を受けますか?

ここにも時間の壁があります。

すみやかに多くの人が接種を受けないと、感染拡大抑制の効果が発揮できません。

 

完成した時にどう行動するのかを、今のうちから少しずつ考え、話し合ってゆきましょう。

あと数か月でその期待の時がやってきます。