コロナ感染の検査法

第11話 コロナ感染(検査法)

 

ワクチンの話は、3回に分けて長々と説明しました。

肝心なのは、その3の「人の心の壁」です。

その1「開発の壁」とその2「時間の壁」は、あまり理解できなくても支障はありません。

しかし、「人の心の壁」は、まさに皆さんが直面する問題なので、十分に理解をしてくださいね。

ワクチンができても、皆さんが積極的に自ら接種を受けようとしないならば、

ワクチンが役に立たなくなります。

開発者の努力、巨額の政府資金が無駄になります。

最初に販売までこぎつけるのは、人類初の遺伝子ワクチンになります。(たぶん年末ごろ)

有効性は、たぶんそれほど高くないと予想されています。

それでも、世界中の人が、接種を受けないといけません。

さあ、どうしますかというのが、「人の心の壁」です。

 

今回は、ずっと先送りにしてきたテーマである「コロナに感染しているかどうかを調べる検査法」について解説をします。

 

当初は、今でのシリーズを検査→治療薬→ワクチンの順に進めようと考えていました。

インフルエンザを例にとると、検査をして、陽性ならば治療薬(タミフルなど)を投与します。

できることなら事前にワクチンを接種しておくという流れが自然です。

この流れで、解説を進めようと考えました。

 

ところが、感染拡大は世界中を驚かすスピードで広まったので、治療薬への関心が一気に高まりました。

そのため、検査の話は先送りにして、治療薬、ワクチンの順に変更しました。

いざ書き始めると説明することがたくさんあり、主要なことに絞り込んでも、治療薬・ワクチンともに、それぞれ3回に分けての解説になってしまいました。

それらの話を駆け足で進めて、ようやく検査を解説できるところまでたどり着きました。

やっと一服です。

 

検査については、いまだに不明なことが多いです。

時折の新聞報道などもどのように解釈をしたらいいのか難しい内容が多いように思います。

 

PCR検査だけが唯一の検査と言う時期から進歩して、今では、抗原検査と抗体検査の3つの検査が利用できる事態になっています。

しかし、どれをどのように使うのかわかりにくいので、一般市民に混乱を起こしているように見えます。

全然、便利になったという実感はないと思います。

 

3つの検査について、現状を整理します。

皆さんが、どのタイミングでどの検査を受けるのがいいのか、その結果をどう解釈したらいいのかを考えてゆく基礎知識を提供します。

 

PCR検査

今では、PCRという言葉を知らない人はいないと思います。

昨年までは、その意味が分かる人は、医療現場・研究に携わる少数の人だけでした。

Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略語です。

少しの遺伝子(DNA)を増幅して、その詳細が研究できるまで十分に増やす技術です。

1970から80年ごろに発明された方法です。

ノーベル化学賞受賞の対象にもなりました。

この技術の発明により、画期的に遺伝子研究が進歩できるようになりました。

目的とするDNAにプライマーとポリメラーゼという物質を加えて温めたり冷やしたりするだけで、DNAがどんどんと増えてきます。

とても単純な方法なので普及しました。

1回の反応では2倍にしか増えませんが、10回繰り返すと100万倍にまで増えます。

1回に2時間かかるので、10回繰り返すと20時間かかります。

今では、技術の改良により数時間で済むようになっています。

感染第1波のころに、PCR検査がなかなか進まないと言われたのは、PCR検査にはとても時間がかかることが背景にありました。

 

さて、現実的な話に進みます。

PCRは、ウイルスを増幅する検査ではなくDNAを増幅する方法です。

一方、コロナウイルスはDNAではなくRNAという遺伝子でできているので、直接的には増幅ができません。 しかし、前処理を加えるとPCR法でも遺伝子を増やすことができます。

技術が急速に進歩して、時間は短縮されましたが、今でも前処理とPCR反応に時間がかかるので、まだまだお手軽な検査ではありません。

 

鼻・唾液などウイルスが存在しそうなところから検体を採取してPCRを実施します。

検体の中に、ウイルスが少しでも入っていたら100%の精度で見つけることができます。

感染していても、採取した場所にたくさんのウイルスがいないとウイルスがうまく採取できません。

感染者でもPCR検査の結果は陰性となります。

このため、PCR検査の精度は、70%ぐらいに留まると考えられています。

 

ウイルスの断片でも増幅ができるので、感染力をすでに失ったウイルスでも結果は陽性にでます。

ウイルスが見つかっても感染力があるかどうかは、PCR検査では区別できません。

すでに病気から回復しているのに、いつまでもPCRが陽性となる原因になります。

 

このように事情があるため、検査精度をあげるためには2度の検査をしています。

とても面倒な検査です。

鼻と唾液のどちらで検査をしてもいいことになりましたが、検査結果が一致しないことがわかっています。

このことも、検査結果の解釈に混乱を生み出す要因になっています。

これらの要因は、原理的に解決ができない問題として残ったままになっています。

 

濃厚接触者で無症状な人には、感染していてもうまくウイルスが採取できない可能性が高いので、見逃し例が少なからず発生しているのは周知の事実となっています。

これを強調すると、本当に何が何だかわからなくなるので、報道では差し控えられているようです。

 

 

抗原検査

インフルエンザの検査キットがこの原理で作られています。

診察室内で、10分以内の短時間で検査結果が得られる便利な検査法です。

検体は、PCR検査と同じく、鼻・唾液を使います。

ウイルスの遺伝子を直接に調べるのではなく、化学反応を使ってウイルスを構成するタンパク質の有無を調べます。

 

ようやくコロナウイルスに対しても抗原検査が開発され、販売に至りました。

PCR検査と比べるとはるかに簡易で便利な検査になるはずでしたが・・・・・

 

抗原検査をして陽性ならば、感染者と判定されます。

一方、陰性の場合は、感染していないとはなりません。

抗原検査の精度が十分には調べられておらず、結果がPCR法と一致するかどうかも不明という事情があるからです。

そのため、陰性の場合は、さらにPCR検査で確認をするというルールになっています。

陰性者は2度も検査をすることになり、簡易な検査というメリットがなくなってしまっています。

そのためPCR検査に代わる簡易検査という位置づけを得ていません。

残念ながら、補助的検査として使用されるにとどまっています。

 

 

抗体検査

血液検査になります。

感染症にかかると体内で免疫反応により抗体というタンパク質が産生されます。

抗体は、病原菌に結合して、病原性を失わせる働きがあります。

抗体は、長く体内に存在するため、再び病原菌が体内に侵入しても、病原性が発揮できず、

病気を発症しない。

これが、抗体反応の原理です。

 

数年前より風疹の抗体検査が、積極的に実施されていることを知っている人は、多いでしょう。

血液を採取して抗体があるかどうかを化学反応により調べます。

抗体がたくさんあると、その人は過去にその病気に感染したか、ワクチン接種を受けたと

判断をします。

問題は、陰性(抗体が少ない、あるいはない)場合の解釈が難しいことです。

陰性の場合に、感染していないと言い切れないのです。

ちょっとややこしいのですが、一番大事なところなので、もう少し詳しく説明します。

 

感染・発症すると抗体はできるのですが、1週間程度しないと検査で見つかる程度まで増えてきません。

実は、抗体にはIgMとIgGの2種類があります。

増える時期も異なります。

詳しく説明するとさらに分かりにくくなるので、省略します。

関心のある人は、ネットで勉強してみてください。

 

感染初期には、抗体検査をしても陰性となる可能性が高いので、感染発見の手段としては使えないのです。

感染・発症して十分に時間が経てば抗体検査が陽性になりますが、それでは治療のタイミングを決めるのにまったく役立ちません。

後日にあのときに風邪みたいな症状は、コロナだったのね、ということがわかるだけです。

 

さらに難しいことには、コロナ抗体は、時間が経つと容易に血液中から消えてしまうという研究発表があります。

本当なら、抗体検査の意義がなくなってしまいます。

 

さらに、さらに、事態を難しくする問題があります。

新コロナ(COVID19)に対する抗体とは、別の抗体を間違って認識する可能性があります。

少し詳しく説明します。

コロナウイルスは、昔から風邪のウイルスとして知られていました。

少なくとも4種類が確認されています。

その後、強毒性のSARSとMERSが加わり、今回のCOVID19で7種類のコロナウイルスが登場しました。

同じコロナウイルスなので、抗体もよく似ています。

COVID19抗体検査として販売されているキットには、昔のコロナウイルスにも反応する可能性があるのです。

 

実例があります。

5月ごろには、世界中の会社から検査キットが発売される状況になりました。

厚生労働省は精度を調べるために5社の抗体検査の性能評価を実施しました。

検査材料は、献血で提供された血液を使いました。

4月に献血された1000人分を対象として検査すると5人が陽性でした。

一方で、1年前に提供された献血で検査をすると2人で陽性となりました。

この時には、まだCOVID19は発生していないので、本来ならば0人となるはずでした。

これを偽陽性と言います。 昔のコロナウイルスを検出したかもしれません。

どのキットを使っても、同じような結果が出たと報告されています。

 

陽性と陰性の判定には、カットオフという数値が使われます。

反応の強さをみて、カットオフより高ければ陽性、低ければ陰性となります。

このカットオフの値次第で陽性にもあり陰性にもなるという弱点があります。

現在、販売されているキットは、カットオフがかなり高い値に設定されているようですので、本来は陽性にすべき血液検体が陰性となっているかもしれないのです。

時々、ある集団を調べると、抗体を持っている人が1%ぐらいという報道があります。

あまりに低すぎると感じています。

カットオフを下げれば、たちまち10〜20%になります。

どれを信用していいのか、暗中模索の状態がいまだに続いています。

この点で、抗体検査の結果に疑問符がついてしまいます。

 

長々と抗体検査についてお話をしました。

書く方も疲れてきました。

もう気づいたと思いますが、現状では抗体検査は、感染発見・治療の目的のためには

ほとんど役に立ちません。

疫学的な研究手段としては、とても有効かもしれませんが、皆さんの利益にはつながりません。

医療現場でも出番はなく、無用のものです。

 

3つの検査の説明をしました。

不明なところがたくさん残っていますが、すぐには解明できないことばかりです。

 

現状では、PCR検査のみが現実的で有効な検査手段です。

この状況は、当分の間続きます。

少なくとも、COVID19パンデミックの間は、PCRのみに限定されると考えていいでしょう。

 

本当に長々と説明しましたが、最終的には、PCRのみという、おもしろ味のない話になってしまいました。

 

読んでいただいた方には、ご苦労様でしたと申し上げたいです。